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伊岡瞬ミステリーを堪能あれ・・・

 

 

小説家伊岡瞬の功績

 小説家、伊岡瞬先生。皆さんはご存じだろうか。

 

 元広告会社勤務で、2005年に第25回横溝正史ミステリ大賞大賞とテレビ東京賞をW受賞し、作家デビューを果たした。同賞のW受賞は当時、史上初の快挙だった。(後に大門剛明が「雪冤」で成し遂げている。)

 そんな伊岡先生の受賞作でありデビュー作でもある「いつか、虹の向こうへ」(角川文庫)を今回は紹介させていただこうと思う。

 

いつか、虹の向こうへ (角川文庫)

いつか、虹の向こうへ (角川文庫)

  • 作者:伊岡 瞬
  • 発売日: 2008/05/23
  • メディア: 文庫

 

 

 ↓この先、ネタバレあり

 

 

 

物語のあらすじ

 本作の主人公は尾木遼平、46歳。元刑事だがある傷害致死事件を起こしたことで妻も職も失ってしまう。懲役4年という牢獄での生活を終え、現在はガードマンとして働いている彼の元に現れたのは自称21歳の高瀬早希という若い女性だった。ひょんなことから彼女は尾木の家に居候することとなる。尾木の家には、高瀬の他に2人の居候がいた。両者とも、心にある悩みを抱えており、尾木と出会うことで少しずつ変わりつつあった。

 そんな中、高瀬がある殺人事件に巻き込まれてしまう。亡くなった久保裕也は高瀬に美人局を強要していた男だった。そして彼女は動機と犯行機会があったことから警察に逮捕されてしまう。しかし元刑事である尾木は彼女の無実を信じ、彼女のアリバイを証明することができるという二宮里奈という女性を探し求めて奮闘するというハードボイルドミステリーだ。

 

「元刑事」といえば・・・(※ちょっと余談)

 ここで少し余談だが、ミステリー小説で主人公が「元刑事」という肩書を持っている作品というと、柚木裕子「慈雨」集英社文庫)という作品がある。この作品は、刑事を定年退職した主人公が、妻と四国遍路の旅をする中である事件の真相が明らかになっていく、という物語だ。

 この作品も警察を舞台にしたミステリー小説だ。是非一読してみてはどうだろうか。

 

慈雨 (集英社文庫)

慈雨 (集英社文庫)

 

主人公、尾木遼平という男

 話を戻そう。

 上述の通り、この物語の主人公尾木遼平は46歳のいわば中年だ。さらにアルコール依存症気味で、それを彷彿とさせるような行為も時々物語に登場した。高瀬と初めて出会った場所でも泥酔していたほどだ。

 そんな元腕利き刑事の中年おじさんだが、物語の中ではヤクザにボコボコに殴られたり、元同僚による息苦しくなるような厳しい取り調べを受けるシーンがある。しかし彼はめげずに彼女を信じ続けた。そこには彼女に対するどんな思いがあったのか。それを是非ともこの一冊で確かめて欲しい。

 

タイトルに隠された秘密

 この作品のタイトル「いつか、虹の向こうへ」。この言葉が意味するのは、尾木の家に住む居候の一人、石渡久典が関係していた。翻訳家として活動している彼が自分で作った絵本「虹売り」である。

 土に埋め、最初に雨が降った日になるとそこに本物の虹が出るという「虹の種」を売っている「虹売り」。だがその種の材料は、人の悲しみだった。悲しみが大きいほど虹も大きくなる。

 尾木は物語のある場面でこのように考えるシーンがある。

 

 もしもいつか、自分にも虹が立ち上ったら。自分にその虹を渡る資格があるなら。そしてその向こうで誰かが待っていてくれるなら。そのときはきっと思い残すことはないだろう。私も、虹を昇って純平に会いに行こう。

 

 純平というのは尾木の亡くなった息子だ。かつて妻と共に過ごしていたあの日々が彼には忘れられないのだろう。

そして彼は、物語の最後に空に向かってこうつぶやく。

 

 「いつかきっと行くからな」

 

 残念ながらそこに虹は出ていなかったが、尾木の純平への強い思いが最後のシーンに満ちているように思えた。

 

ハードボイルドなミステリーの世界へ

 殺人事件に隠された事実、尾木と共に暮らす三人の同居人たちが抱える過去、そして尾木自身の過去が混ざり合い、物語は進んでいく。そして尾木が、どこでどのようにしてこの三人の同居人たちと出会い、居候することになったのか、そこもこの物語のカギを握ることとなるだろう。

 そして最後に待ち受けるまさかの真実、それを是非とも目に焼き付けて欲しい。

 

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