歌野晶午の「ミステリー×恋愛」小説
これぞどんでん返し!
「どんでん返し」
ミステリー小説などでよく聞く言葉だ。
これから私が紹介する小説は、その「どんでん返し」を存分に楽しむことのできる一作だ。
葉桜の季節に君を想うということ
タイトルは少し長めだが、タイトルに似合わずこの作品は推理作家歌野晶午による、れっきとした「ミステリー小説」だ。
- 作者:歌野 晶午
- 発売日: 2007/05/10
- メディア: 文庫
以下、ネタバレあり↓
あらすじ
麻宮さくらとの出会い
主人公の名前は成瀬将虎。元私立探偵だ。ヒロインは麻宮さくらという女性だ。二人は駅のホームで偶然出会う。ある事情から自殺を図っていたさくらを成瀬が救出したところから二人の物語が始まる。麻宮さくらのミステリアスで、何か深い事情を抱えているような空気感が印象的だった。
蓬莱倶楽部の秘密
そんなある日、成瀬が通っているフィットネスクラブで知り合った久高愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼される。元探偵の成瀬は愛子からの依頼を受け、妹の綾乃や同じフィットネスクラブのキヨシこと芹沢清らと共に本格的な調査に入っていくのである。成瀬は、殺害された愛子の祖父、久高隆一郎殺しを調査するため、悪徳会社「蓬莱倶楽部」を内偵することとなる。
成瀬将虎、ヤクザ探偵に
成瀬将虎、十九の夏。高校を卒業した彼は、明智探偵事務所という探偵事務所で働いていた。そこで彼は、就職して初めての探偵仕事をいただくことになる。その依頼人は、明智探偵事務所と同じビルに入っている八尋組の若頭補佐の山岸正武という男であった。そう、山岸は所謂ヤクザである。依頼内容は、敵対関係にある戸島組の内偵であった。八尋組の本間善行が殺されたのである。山岸はその犯人として戸島組の連中に目をつけているというのだ。依頼を受けた成瀬は、一人で戸島組へ入ることとなる。そこでまた不可解な事件が発生し、成瀬はヤクザとして働きながら、探偵としても事件を調査していくのであった。
千絵をたずねて・・・
ある日、成瀬は西麻布の焼き鳥屋で安さんこと安藤士郎という御年七十二歳の老人と酒を酌み交わしていた。そんな成瀬は安さんから、別れた妻と共に離れていった一人娘の千絵を探してほしいという依頼を受ける。聞き込み調査をして、千絵は名古屋にいることが判明した。千絵は名古屋で喫茶店を営んでいる母と共に暮らしており、まだ女子高生でいながらカウンターに立って、赤いドレスを身にまとって接客をしていたのだ。成瀬は安さんに事実を告げると、安さんは案の定ガッカリした。
それ以来、安さんは成瀬を誘ってくることは無く、一年が経って行ったのである。
読書中に抱いた謎
今、四つのエピソードのザックリとしたあらすじを紹介したが、どれも同じ主人公だが内容は異なる物語だ。何ならば、時系列もバラバラだ。一見どんな順番で物語が進んだのかよく分からない。私もこの本を読んだとき、正直よく分からなかった。そしてここから後半部分にかけて物語を読み進めるにつれて、それぞれのエピソードが繋がっていく。そして冒頭に登場したヒロインの麻宮さくらが各エピソードにどのように関わっていくのか、そこも楽しんでみて欲しい。さらにラストには大きな「どんでん返し」が待っている。今まで読み進めていたことが大きく覆るシーンが現れるので、きっと読者は驚くことだろう。因みに私も驚いた。
「時系列」が鍵を握る!?
この小説の大きなポイントとなるのは「時系列」であると私は考える。先述の通り、この物語は複数のエピソードが無茶苦茶な時系列で描かれている為、一見どの順番でストーリーが繋がるのかよく分からない。しかし、この「ストーリーの順番」こそが最後に大きなサプライズを巻き起こしてくれるのだ。一体どんな結末が待っているのか、是非一読してみてはいかがだろうか。
「ミステリー」×「恋愛」の融合
私は、ミステリー小説が好きだ。中でも本作のような「どんでん返し」系のミステリーは読んでいてとてもスッキリする。どんでん返し系のミステリーは以前このブログで紹介した折原一の「倒錯のロンド」や、伊坂幸太郎の「アヒルと鴨のコインロッカー」などを読んだことがあるが、今回の「葉桜の季節に君を想うということ」はミステリーに加え、2人の恋愛模様まで描かれた、意外とありそうで無いようなタイプのミステリーではないかと私は思う。「ミステリー」と「恋愛」を混合させた作品はなかなか無いと思うのでこの不思議な感覚を是非皆さんにも味わってもらいたい。
最後の一文まで目が離せない。
- 作者:伊坂 幸太郎
- 発売日: 2006/12/21
- メディア: 文庫
成瀬将虎と麻宮さくら、2人が抱く意外な過去の秘密に注目である。(←これはヒントになってしまうかも…)